【ベストナッジ賞】タクシー駐停車マナー改善ナッジ
概要
京都市内の交差点付近におけるタクシーの違法な客待ち駐停車を解消するために、ナッジを活用した看板を設置した。その結果、看板設置前に比べて、設置後では、1日あたりの違法停車時間の合計が約9割減少した。
当該取組は、京都市と株式会社NTTデータ経営研究所による公民連携の共同実証実験として実施した。
背景
京都市内有数の繁華街である四条通では、一部のタクシーによる交差点・横断歩道付近での客待ち駐停車が頻発しており、近隣バス停におけるバス発着の妨げや交通渋滞の要因となっていた。
Behavior / Analysis:課題の特定とターゲット行動の設定
(1)最終目標
- 四条河原町南東角交差点付近(※)における違法な客待ち駐停車の解消
※対象地点は、以下2つの観点から検討して選定した。
①課題解決のインパクト:交通渋滞やバス発着への影響が特に大きい地点であった
②「望ましい行動」を取ることが可能な環境か:徒歩1分の近隣に正規のタクシー乗り場が存在
(2)阻害要因、促進要因の特定
【タクシー乗務員側の要因】
- 京都市はこれまでタクシー乗務員向けの啓発活動を継続的に実施し、アンケート調査では意識の向上がみられていたが、違法な客待ち停車は無くならなかった。そこで、乗務員の主なボトルネックは次の2点と考えた。
- 啓発、規範意識への訴えかけを行うタイミングと問題行動(違法駐停車)発生のタイミングに乖離がある
- 違法だと分かっていても、利用者が多くメリットが大きいため、合理的な損得計算の結果問題行動をとってしまう
【タクシー利用者側の要因】
- 上記分析をふまえ、乗務員のボトルネックを解消するためには、前提として利用者の行動を変える必要があると考え、利用者が違法停車タクシーを利用してしまう理由についても分析を行った。その結果ボトルネックは以下2点と推定。
- 交差点・横断歩道付近でタクシーを止める・乗ることが違法だと意識していない
- 正規のタクシー乗り場が近くにあることを知らない/乗り場までの距離・時間がわからないため、適切に損得計算が正確に行えない
(3)ターゲット行動
- タクシー乗務員:違法な客待ち駐停車をやめ、正規のタクシー乗り場で客待ちを行う
- タクシー利用者:違法な客待ち駐停車を行っているタクシーを利用せず、正規の乗り場からタクシーを利用する
Strategy:介入設計
■共通
- 阻害要因分析の結果をふまえ、看板の表裏を使い、1つのナッジで2つの対象(タクシー乗務員、利用者)へ働きかける設計に。
■車道側(対タクシー乗務員)
- 人の視線を感じることで規範的行動が促進される事例をふまえ、目のイラスト、「みんな見てますよ」のメッセージを表示。
- ただし、イラストや文言だけでは効果が弱い事が想定されたことから、プラスアルファの工夫として、実際の歩行者の視線を感じる窓も設置。
■歩道側(対タクシー利用者)
- 窓からタクシーが見えるようにするのと併せて、そのタクシーは違法停車であることを明示。
- また、正規のタクシー乗り場の存在と所要時間を記載。
Intervention:介入実施と効果検証
(1)アウトカム指標
- 対象地点での、タクシーによる違法駐停車時間の減少
(2)実施方法
- 評価デザイン:前後比較
- 検証方法:対象地点におけるタクシーの違法停車時間を介入前後で測定し、比較
- アウトカム指標:1日(測定時間:2時間)あたりの合計違法駐停車時間
- 指標測定方法:京都市職員が現地で記録
- 期間:下図参照
※交通量や観光客数に大きな影響を与えるイベント等が無いことを確認し、介入期間を選定。
看板設置前 | 令和4年02月08日(火)~10日(木) 午後2時~午後4時 |
看板設置直後 | 令和4年02月15日(火)~17日(木) 午後2時~午後4時 |
看板設置8か月後 | 令和4年10月25日(火)~27日(木) 午後2時~午後4時 |
(3)結果
【短期的な結果】
- ナッジを用いた看板の設置後、1日当たりの合計違法停車時間が、約9割減少した。
- また、所管の警察署からは、四条河原町交差点付近におけるタクシーの違法駐停車に関する苦情の頻度が、設置前後で大幅に減少したとの報告があった。
【長期的な結果】
- また、効果の持続状況を確認するため、看板設置の8カ月後に再度測定を行ったところ、1日当たりの合計違法停車時間は看板設置前に比べ7割少なく、一定程度の効果が維持されていることが確認できた。
(4)考察
- 事前の想定を超える効果を生むことが分かった。利用者の視線の活用や、2つの対象へ働きかける仕掛けがこの効果の大きさに寄与したと推測する。こうした工夫は、違法駐停車対策に留まらず、様々な課題解決に活用できるのではないか。
- 馴化による効果の減衰を予測していたが、一定程度の効果が維持されていた。対象者が日々変わる利用者向けのナッジや、SNSで話題となったことが要因か。
- 単群な前後比較であったが、介入期間中に交通量や観光客数に大きな影響を与える他のイベント等が無かったことを確認している。
Change:今後の展開
- 効果が確認できたことを受け、看板は今後も継続して設置する予定。
※看板が効果を発揮するためには、①近くに正規のタクシー乗り場があること、②一定の人通り(人の目)があること、といった条件が揃う必要があると考えられることから、今後の設置場所の拡大については慎重に検討中。
- 定期的に効果の持続状況を検証し、状況に応じた対応を適宜検討する予定。
全体を通して工夫した点、課題だと感じた点
■工夫した点
- 望ましい行動(代替行動)を取ることが出来る環境を対象地点として選定したこと。(正規のタクシー乗り場が近くに無い地点で介入を行ったとしても、別の地点で違法駐停車・乗車が発生するだけになってしまう)
- 公民連携プロジェクトのメリットを最大限活かすため、下記のような役割分担をしつつ、阻害要因分析や介入設計においてはフラットに議論を行った。
- NTTデータ経営研究所:プロジェクトマネジメント、阻害要因分析の支援、参考となるエビデンス・事例の探索、介入策のたたき台検討、効果検証の支援 等
- 京都市:違法駐停車発生状況に関する過去調査結果等の提供、看板設置にあたっての各種規制の確認や申請対応、現地での測定、関係者へのヒアリング 等
■苦労した点
- 看板設置にあたっての各種規制への対応や、安全面での配慮
参考文献
Daniel Nettle, Kenneth Nott, and Melissa Bateson (2021) “`Cycle Thieves, We Are Watching You′: Impact of Simple Signage Intervention against Bicycle Theft” , PLoS ONE, 7(12) Wang, R., Wang, Y., Chen, C., Huo, L., & Liu, C. (2023). How do eye cues affect behaviors? Two meta-analyses. Current Psychology, 1-18.
問い合わせ先
- 株式会社NTTデータ経営研究所 行動デザインチーム メールアドレス:behavior-design@nttdata-strategy.com
- 京都市 都市計画局歩くまち京都推進室 電話:075-222-3483
ひと言メモ!
ベストナッジ賞2022の総評コメント
「窓付き看板でタクシー運転手と利用者の両方に介入している点、利用者の参加により介入効果の増幅を試みている点がユニークで、選考委員会で高く評価されるとともに、行動経済学会第16回大会来場者による投票において最多の票数を獲得されました。」
引用元:http://www.abef.jp/prize/bestnudge/
自治体職員の声
1つのナッジで乗務員と利用者の両方にアプローチする手法は、他の分野にも応用できる考え方だと思います。加えて、正規のタクシー乗り場が近くにあり、「望ましい代替手段」への誘導を意識してナッジを設計した点も参考になります。(YBiT・高木)
第48回PolicyGarage研究会(2023.3.8)での事例発表に対する参加者の声
最近、ガチガチの政策立案ばかりしていたので、楽しく遊び心のある介入に触れられて気持ちを新たにできました。
簡単なようで緻密に組み上げられており、大変興味深かったです。なかなか考え付かないような看板を「創る」ところがすごい!!
粘り強さと柔軟な発想という本来公務員の基礎体力のような2つの要素を再認識させていただいたように思います。
関連資料
タクシーの違法客待ちを減らすには?
出所:Wedge ONLINE 社会の「困った」に寄り添う行動経済学
ナッジの活用でタクシーの違法停車時間が最大9割減少 ~タクシー駐停車マナー改善に向けた 京都市との共同実証の実施結果について~
出所:株式会社NTTデータ経営研究所 実証結果プレスリリース
出所:日本版ナッジ・ユニットホームページ