【ベストナッジ賞】駐輪場の自転車の並びの改善へのナッジの活用
概要
広島大学附属高校における、自転車置き場での生徒の自転車の停め方を、ナッジによって改善する。直接的に言葉で依頼したナッジ、間接的に言葉や絵、線を用いて促したナッジを比較検討して、自転車をまっすぐに、自転車間の距離が均等になるように生徒の行動変容を促すのに効果的なナッジを明らかにした。
背景
広島大学附属高校の生徒が、登校時に駐輪場で自転車が適当に停められていることによって、所定のスペースに他の生徒の自転車を止めることができないことがあり、困っているという問題を解決したい。
Behavior / Analysis:課題の特定とターゲット行動の設定
(1)最終目標
- 考えた4つのナッジの中で、自転車の「美しい停め方」を促進するのに最も効果的なナッジを探す。
(2)行動プロセスマップの作成
- 一人目:自転車を止める(どこでも自由に止めることができる→入口に近く、斜めに停めやすい)
- 二人目:自転車を止める(入口に近いが、一人目と詰めずに少し距離を置きやすい)
- N人目:自転車を止める(電動自転車等の大型自転車は間隔が狭くなり止められない、自転車ゾーンからはみ出してしまう)
(3)阻害要因、促進要因の特定
- 駐輪場に自転車を置く際に、先に適当に止められた自転車があることによって他の利用者も自転車を整理して置くことが出来なくなることが原因だと考えた。
※今回はあまりその他の要因に注目していなかったが、自転車通学の人にアンケートを取ることで阻害要因を入念に調べたり、場所や天気の違いによる視点も取り入れられると、より良かったかもしれない。
Strategy:介入設計
2021年度4〜10月に検討し、11〜3月に実施した。本校の高校1・2年生(自転車通学者)に、数週間指定の駐輪場に停めてもらい、自転車の停め方に関する測定を行った。
- 方法1「きれいに停めてください」と書かれたポスターを貼る(直接的なナッジ)
- 方法2「自転車の乱れは心の乱れ」と書かれたポスターを貼る(間接的なナッジ)
- 方法3 地面にラインを引く(間接的なナッジ)
- 方法4 きれいに停まっている自転車のイラストのポスターを貼る(間接的なナッジ)
(方法2、3、4のナッジはインターネットで見つけたトイレのナッジや消毒液のナッジを参考にしながら考えた。)
方法1
方法2
方法3
方法4
測定する際の駐輪場の「美しさ」の定義は以下のように定めた。
- 車体の壁に対しての角度(平均)
(車体の壁に対しての角度が小さければ小さいほど美しい。)
- 車体同士の間隔(分散)
(車体同士の間隔(cm)を測定し、測定した数値の分散を求める。分散の値が小さいほど等間隔で止められているといえるので美しいと定義した。)
Intervention:介入実施と効果検証
(1)介入の実施と介入方法の修正
- まず、11月に2週間程度、高校2年生で実験した。一見改善したように見えたが、そもそも実験前の値にグループ間で違いがあり単純な比較ができないことに気づいたため、どのくらい実験の効果があったのかを測定できないと考えた。
高校2年生を対象とした実験結果(上:実験前の値、下:実験後の値)
方法1 | 方法2 | 方法3 | 方法4 | |
角度 | 10.715
↓
3.9176 | 11.585
↓
1.914 | 4.2935
↓
1.697 | 5.295
↓
2.22 |
間隔 | 215.085
↓
247.475 | 307.143
↓
249.383 | 176.243
↓
329.816 | 503.444
↓
239.18 |
実験前の値にグループ間でばらつきがあり、単純に比較できず、改善効果があったのかが評価しにくい。
- 高校2年生では、以下ようにクラス毎にグループ分けをしていた。しかし、方法ごとに自転車の数が違うため最初の値にばらつきがあった。
- そこで、高校1年生では、各クラスを4グループに分けて、それぞれの組み合わせで実験前の数値がなるべくそろうように工夫した。
- 事前に美しさの定義に基づいて自転車の分散を測る。
- クラスの駐輪場あたり4グループ作り、グループ(5台)ごとに分散を出す。これを4クラス分行い16グループ作った。
- 16グループを初めの分散がなるべく揃うよう、グループの分散の合計がどのナッジでも均等になるように4つのナッジに振り分けた。
実験前の数値をそろえるという目的がはっきりと決まっていたので、どうしたら実現できるか3人で意見を出して、改善方法を見つけ出した。
高校1年生を対象とした実験結果(実験前の値)
方法1 | 方法2 | 方法3 | 方法4 | |
角度 | 4.025
| 3.191 | 4.5333 | 3.483 |
間隔 | 153.262
| 161.333 | 167.680 | 156.013 |
グループ分けを改善したことによって、このように比較しやすくなった。
(2)結果
- 結果の詳細は表の通り。矢印の上側は実験前に比較対象として何もしていない状態での結果、下側は実験を行った後の結果である。
高校1年生を対象とした実験結果(上:実験前の値、下:実験後の値)
方法1 | 方法2 | 方法3 | 方法4 | |
角度 | 4.025
↓
2.241 | 3.191
↓
3.133 | 4.5333
↓
1.833 | 3.483
↓
2.308 |
間隔 | 153.262
↓
94.296 | 161.333
↓
84.418 | 167.680
↓
249.615 | 156.013
↓
163.911 |
(3)結果の考察
- 結果より、角度については、方法1(「きれいに停めてください」)・方法3(地面のライン)・方法4(イラストのポスター)で改善が見られた.間隔については、方法1・方法2(「自転車の乱れは心の乱れ」)で改善が見られたので、ナッジの効果が確認できたといえる。
- 方法3では間隔の分散が大幅に増えたが、その要因は地面に引いたラインが完全には等間隔ではなかったからではないかと考えられる。
Change:今後の展開
- 調査の方法を改善して、最も有効なナッジをより正確に検証したい。
- ポスターの掲示をしない時期を設ける等、他クラスの掲示物から受ける影響に配慮する工夫を検討する。
- ③の間隔に関するナッジの課題を修正して再調査を行いたい。
- 一定の効果が確認できたので、マンションなどの学外の場所での調査を検討したい。
全体を通して工夫した点、課題だと感じた点
- 学校生活の改善点をナッジによって改善することをテーマとしていたので、学校生活で何に困っていて、それにどのようなナッジが使えるかを考えるところにとても時間がかかった。
- 論文を検索しても高校等で同じような研究をしている人があまりおらず、参考資料が少なかったため、このナッジでうまくいくだろうかという不安があった。
- また、学校の駐輪場だけでなくマンションなど場所を変えて研究を行いたかったが、自治会との調整が難しく実施できなかったのが悔しかった。
参考文献
- 人工知能学会誌「ナッジする仕掛け」(閲覧日:2022年1月19日)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsai/28/4/28_596/_pdf/-char/ja
- 秋田工業高等専門学校研究紀要「新型コロナウイルス感染症による図書館の対策について」 (閲覧日:2022年1月19日)
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050288215550650368
ひと言メモ!
ベストナッジ賞2022の総評コメント
「他の同様の取組みではアンケートによる意識調査などで効果測定されるだろうと想像されるところを、あくまでも行動に基づく評価にこだわり、ユニークで妥当な結果指標を考案して地道にデータ化された手続きが模範的であるとして、高く評価されました。」
引用元:http://www.abef.jp/prize/bestnudge/
自治体職員の声
駐輪場の「美しさ」の定義を定め、データに基づき効果検証した点は勿論のこと、最初の実験で上手くいかなかった点をしっかり分析し、2回目の実験をデザインした点がとても印象に残りました。「やって終わり」ではなく、成功・失敗の原因を考え、改善を重ねる姿勢を忘れないようにしたいと思わせてくれる素敵な事例です。(PolicyGarage・伊豆)
高校生が身近な課題に対して、ナッジを活用し、検証した、というこのプロセス自体にとても価値があり、これを契機に多くの学生に行動科学を身近に感じてもらえることを期待します。(PolicyGarage・髙橋)
第48回PolicyGarage研究会(2023.3.8)での事例発表に対する参加者の声
とてもわかり易く、失敗を糧により良くしていくことの重要さを改めて学び、モチベートされました。
改めて、公共政策の面白み、エビデンス・効果検証を大事することの意味を学びました。
検討プロセスや失敗の活かし方、勉強になることがいっぱいあった。
高校生の頑張っている姿、素晴らしい取り組みを見て感動しました。
触発されて、自分も大胆かつ繊細な取組をしていきたいと思いました!
広島の高校生の皆さんのナッジには、元気と勇気と希望をいただきました。
社会の授業でナッジを取り扱っていることや、高校生でこんなに色々と考えて取り組まれていることに驚きました。
関連資料
高校生が身近な課題を解決するには?
出所:Wedge ONLINE 社会の「困った」に寄り添う行動経済学
出所:日本版ナッジ・ユニットホームページ