【ベストナッジ賞】避難行動要支援者の同意書の返送率の向上
概要
市民からの「同意書の返送率」をあげるため、対象者を4つのグループにランダムに分けて、それぞれのグループの封筒の「宛名ラベル」に異なるメッセージを印字して、返送率のグループ差を測定しました。
結果として、「○月○日までにご返送ください」というメッセージを印字したグループの返送率が、メッセージなしのグループに比べて【13.0%ポイント】高くなりました。
この結果を踏まえて、その後本事業では、封筒の宛名ラベルに必ず「返送期限」を入れることにしました(2022年度も継続実施中)。
背景
社会福祉課が担当する「避難行動要支援者名簿」では、一定の要件に該当する方を、「災害時に自力で避難することが難しい方(避難行動要支援者)」として名簿に登録しています(全国共通)。
(出所:環境省HP掲載資料 p.2, 一部修正)
名簿情報の取扱い
(出所:環境省HP掲載資料 p.3~4, 一部修正)
名簿は、【災害時】に、民生委員らの「支援者」に自動的に提供されますが、【平常時】は、名簿に載っている本人または保護者の「同意がない限り」知らされません。
平常時にわかっていれば、災害時に備えて支援者と要支援者が一緒に避難計画の策定などの準備に入れるので、平常時の提供に同意する方を増やすことが大切です。
つくば市では、平常時に名簿情報の提供の可否について意向確認をするため、年に1~2回程度、名簿に掲載されている方に郵送で「同意書」の返送をお願いしていますが、返送率は40%にとどまっていました。
そこで、通知を受け取る方の行動プロセスマップを作成し、返送を妨げる要因(ボトルネック)をつきとめることにしました。
※期間や予算などの制約について ・避難行動要支援者名簿事業だけに時間をさくことはできない ・当初予算で計上した郵送費+ちょっとした消耗品程度の費用で実施できること ・千葉県千葉市では「オプトイン方式」から「オプトアウト方式」に変更しているが、条例改正を伴うためすぐにはできない
Behavior / Analysis:課題の特定とターゲット行動の設定
(1)最終目標
・平常時の個人情報の提供に同意する方を増やす
・同意書の返送率をあげる
(2)行動プロセスマップの作成
(出所:環境省HP掲載資料 p.7, 一部修正)
(3)阻害要因、促進要因の特定
- 開封しよう:封筒に気づいていない or 封筒に気づいたがすぐに開封しない(現在バイアス,先延ばし)
- 読もう:通知の内容が複雑、ややこしくて読む気になれない(情報過剰負荷)
- 同意書を書こう:通知の内容を理解できないから書く気になれない(情報過剰負荷)
- ポストに行く:困難、面倒
*自分に封筒が送られてきたらどうするか?自分の親、祖父母だったらどう行動するか?各自が想像しながら検討しました。
(4)ターゲット行動
- 封筒の開封者を増やす
- 同意書の返送率をあげる
Strategy:介入設計
上記での分析結果を踏まえ、EASTを活用して「つくばナッジ勉強会」でブレインストーミングを行い「どうしたら封筒を開けてもらえるか」に焦点をあてて検討し、封筒にメッセージを入れることにしました。
(出所:環境省HP掲載資料 p.10, 一部修正)
*封筒メッセージで工夫したこと
- Easy:メッセージはできるだけ短く
- Attractive:二重線で囲む
(出所:環境省HP掲載資料 p.11, 一部修正)
*対象者はランダムに4つのグループに分けました【層別ランダム化】
手順1:
- 手元にある対象者851人のデータから、返送率と何かの要素(例えば、性別や年齢)に関係がないか調べる。
- 今回は、名簿に登録された理由によって(若干)返送率に差があることがわかりました。
手順2:
- 対象者を名簿に登録された理由で分けて、それぞれ4つに分ける。
- ピンク:要支援、みどり:療育手帳、むらさき:身体障害者手帳、茶色:精神障害者手帳
- 「ピンク+みどり+むらさき+ちゃいろ」の構成比率がグループ間で大きく違わないように分ける。
- 851名のうち6名は死亡等の理由により対象外
(出所:環境省HP掲載資料 p.12, 一部修正)
*ちょっとしたメモ
今回使える予算は… 当初予算で計上した郵送費のみ(追加で使える予算はない)
封筒メッセージに行きついた経緯 メンバーのひとりが「封筒にメッセージを入れよう!」と提案 ラベルシールにメッセージを追加したら、手間にならないし、追加予算もかからない!
Intervention:介入実施と効果検証
(1)アウトカム設定
- 同意書の返送率を40%以上にする(少しでもあげる)
(2)実施方法
- 評価デザイン:RCT(層別ランダム化)
- 検証方法:返送期限までの消印があるものをメッセージごとに集計
- アウトカム指標:返送率(返送数)
- 対象:851名 うち6名 死亡等の理由で対象外 うち247名 新規名簿登録者(2020年11月発送) うち604名 過去の未返送者(2021年1月発送)
- 倫理的配慮:倫理チェックリスト①調査・研究編の確認
(3)結果
(出所:環境省HP掲載資料 p.15, 一部修正)
Change:今後の展開
- 封筒ラベルには返送期限を入れて送付する
- 今回の結果を全庁に共有し、応用する
Change:全体を通して工夫した点、課題だと感じた点
(1)工夫
- メッセージ案を検討する際にひとり1つ以上提案することとし多数決をとりました。勉強会メンバーがそれぞれ根拠を考えることができました。
参考文献
避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針(平成25年8月)
問い合わせ先
つくばナッジ勉強会 金野理和(統計・データ利活用推進室)
関連資料
封筒メッセージで返送率アップ
出所:iJAMPポータル
要支援者からの確認書返送率を上げるには?
出所:Wedge ONLINE 社会の「困った」に寄り添う行動経済学
令和3年度ベストナッジ賞(環境大臣賞)
出所:環境省ホームページ
出所:日本版ナッジ・ユニットホームページ