【海外研究】情報提供のタイミングによる低所得世帯向け大学進学率促進ナッジ
概要
成績優秀な低所得世帯の高校生の大学進学率を高めるために、ナッジを用いた事例。
ミシガン大学では、ミシガン州の公立高校を卒業した成績優秀な低所得世帯の高校生に対し、授業料免除を行っている。この研究では、奨学金の受給資格を満たす成績優秀な低所得世帯の高校生を対象にRCTを行い、奨学金事業に関する早期の情報提供が、学生の大学選択に与える影響について分析した。
介入群では、大学出願前の高校生に対し、ミシガン大学から、「合格した際に在学中の授業料支払いが免除される」ことを強調したレターを郵送した。また、その両親に対してもメールで支給についての説明が送られた。
一方、対照群には学校案内と経済的な援助について書かれた、通常の大学案内を送った。対照群の生徒もまた、ミシガン大学に合格した際には授業料が免除されるが、介入群のように出願前には授業料免除を強調したレターが郵送されなかった。
結果、対照群に比べて、介入群の出願率は大幅に上昇した(68% vs 26%)。実際の入学率も大幅に上昇した(27% vs 12%)。
対象者
主に自治体の教育・福祉担当部署の方など
ひと言メモ!
行動変容を起こすために、「情報提供のタイミング」がいかに重要かを示しています。今回の事例では、4年分の授業料が免除される資格があることを「出願前の時点」で周知することで、出願率・入学率を向上させました。
ここで重要なポイントは、奨学金の支給額自体は変わっていない点です。制度について周知するタイミングを変更し、早期に大学費用への不確実性を取り除いたことで、行動変容に繋がりました。また、今回の事例では、奨学金の申請フォームや世帯収入の証明書の提出などを不要としています。「手続きの簡略化」も大きな行動変容に繋がった1つの要因であると考えられます。
莫大な資金が投入される「無償化」や「補助金」といった政策は、受益者に大きな便益をもたらします。しかし、不適切な支援のタイミングや手続きの煩雑さといった、受益者にかかる”わずかな”コストによって、事前に期待されていた効果は発揮されなくなるかもしれません。(大阪大学・野元)
(出所:Dynarski et al.(2021) online appendix, p2 Exhibit 1)
実際に郵送された封筒。黄色に黒の縞模様の派手なデザインにより、見落としたり誤って捨ててしまうことを防いでいる。
(出所:Dynarski et al.(2021) online appendix, p3 Exhibit 3)
封筒を開封した際に一番最初に目につく部分。合格した場合に4年分の学費(約60,000ドル)が免除されることが強調されている。
(出所:Dynarski et al.(2021) online appendix, p3 Exhibit 4)
封筒の中身。パンフレットには出願方法などが記載されている。
参考
出所:Dynarski, Susan, CJ Libassi, Katherine Michelmore, and Stephanie Owen. 2021. "Closing the Gap: The Effect of Reducing Complexity and Uncertainty in College Pricing on the Choices of Low-Income Students." American Economic Review, 111 (6): 1721-56.